小林政明法律事務所

その老朽化した建物、そのままで大丈夫ですか?

 大家だった親から相続した木造アパート、あるいは昔は人が住んでいたが、今は空き家となっている古い実家。様々な形はあるにせよ、老朽化した古い建物をお持ちの方は日本中にたくさんいらっしゃると思います。
 
 現在、こういった老朽化した建物の増加は、ひとつの社会問題として注目されてきています。
この地震大国日本において、ボロボロのアパートを人に貸していて大丈夫でしょうか。倒壊でもして、入居者に万一のことがあったらきちんと責任をとれますか?
 空き家にも危険はたくさんあります。普段人の目や管理が行き届かない状態にあるため、よりいっそう危険は大きいといえるかもしれません。例えば、瓦が落ちてきそうな状態であるのに放置されているとか、塀が倒れそうになっているのに修理されていないとかです。また、直接的な危険ではありませんが、放火や不審者の侵入等、防犯上の観点からもよろしくありません。こういった空き家は、近所の方々から迷惑物件として見られることも多々あります。また、現在では、危険な空き家に対しては固定資産税の点でも厳しい対応がなされる可能性があるうえ(※1後述)、行政からの指導等が行われる可能性もあります(※2後述)。
 
 そこで、こうした建物を適切に修理、解体し、または解体し新築することで、危険を回避し、また有効活用することで利益をあげるなどすることが、建物の所有者としてふさわしい行為といえます。

<建物を賃貸していない場合>
 自己の建物を解体することは自由ですから、これを解体すればそれで問題ありません。
 とは言っても、解体にはお金がかかりますよね。それゆえになかなか老朽建物の増加が解消できないと考えられ、現在、東京都の多くの自治体では、老朽建物の解体に対して助成金を交付するという取扱を行っています。これは、対象物件が所在する自治体が交付するものであるので、その物件がある自治体のホームページを調べたり、問い合わせをしたりするとよいと思います。
 
<建物を賃貸している場合>
 さてさて、問題は古い建物を人に貸しているような場合です。
 賃借人が解体に賛成して任意に建物から出て行ってくれたり、建替えに賛成して新しい建物で新しい賃料で契約しなおしてくれたりする人ばかりであれば問題はありません。合意によって賃貸借契約を解除した上で、建物を明渡してもらったうえで解体をすればよいことになります。
 しかし、任意に契約の終了に応じてもらえない場合はどうしたらよいでしょうか。この場合には、2つの法律構成によって契約は終了したと主張していくことが考えられます。
 
老朽化が著しいので賃貸借の目的物が「滅失」したのに準じる状態にあるとの構成
 まず、賃貸借の目的物が「滅失」した場合には、賃貸借契約は当然に(終了させる意思表示等を要しないということ)終了するとされています(最高裁判例昭和42.6.22)。
 そして、同判例によれば、滅失といえるには
ア 建物の主要部分が消失した
イ 消失部分の修復に要する費用が不相応である
(「不相応である」→修復のために新築するのに近い程度の費用を要する)
との基準を示しています。つまり、倒壊寸前ほどの著しい老朽化でないと、老朽化を理由に「滅失」とはいえないと考えられます。
 ただ、この構成によれば、立退料を支払わずに契約を終了させ明渡を請求できるので、かかる構成を積極的に主張するメリットはあります。
 
老朽化していることを「正当事由」として考慮してもらう構成
 賃貸人からの一方的な意思表示のみによって賃貸借契約を終了させようとする場合、借地借家法の規制を受け、「正当事由」がなければ賃貸借契約を終了させることはできないことになっています。
 「正当事由」の有無は、賃貸人の建物を明渡してもらう必要性の大きさと、賃借人が建物を使い続ける必要性の大きさを秤にかけて検討されます。この際に、賃貸人側の必要性を補うものとして支払われるお金が、いわゆる「立退料」です。
 つまり、立退料の要否や金額は、ケースバイケースということになります。老朽化が激しく解体や建て直しの必要が高く、一方で賃借人の不利益が小さいような場合には、立退料が不要と判断されることもあります。実際に立退料なしで解約を認めた判例も存在します。
 
 こういった構成による法的主張を記載した書面を相手方に送り、これが争われるようであれば調停なり訴訟なりの手続きをとったうえで、建物から出て行ってもらうことになります。(「正当理由」が認められればですが。)
 明渡しを受けることができれば、あとは建物の解体です。この場合も前述のように行政から助成金が交付されうるので、これを活用するとよいでしょう。
 
 
※1 『空き家と固定資産税』
 空き家が壊されずに放置されてきた理由は税法上の理由もあります。
 土地の上に住宅が存すると、その土地は「住宅用地」として扱われ、税法上固定資産税が3分の1や6分の1になるなど、税額が大きく軽減されます(地方税法349条の3の2)。そのため、住宅用の建物が土地上に存在すると、建物の固定資産税と合わせても、更地のみの固定資産税よりも安く済むのです。こうした事情があるため、住宅用の建物が空き家となっても、節税のためにこれを取り壊さずに放置する例が多かったと言われています。
 しかし、こうした実情に対処するため、空家等対策の推進に関する特別措置法が創設され、地方税法349条の3の2は以下のように改正されました
 

(住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例)
第三百四十九条の三の二  
 専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの敷地の用に供されている土地で政令で定めるもの(前条(第十二項を除く。)の規定の適用を受けるもの及び空家等対策の推進に関する特別措置法第十四条第二項の規定により所有者等に対し勧告がされた同法第二条第二項 に規定する特定空家等の敷地の用に供されている土地を除く。以下この条、次条第一項、第三百五十二条の二第一項及び第三項並びに第三百八十四条において「住宅用地」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は、第三百四十九条及び前条第十二項の規定にかかわらず、当該住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の三分の一の額とする。
 
2  住宅用地のうち、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める住宅用地に該当するもの(以下この項において「小規模住宅用地」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は、第三百四十九条、前条第十二項及び前項の規定にかかわらず、当該小規模住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の六分の一の額とする。
一  住宅用地でその面積が二百平方メートル以下であるもの 当該住宅用地
二  住宅用地でその面積が二百平方メートルを超えるもの 当該住宅用地の面積を当該住宅用地の上に存する住居で政令で定めるものの数(以下この条及び第三百八十四条第一項において「住居の数」という。)で除して得た面積が二百平方メートル以下であるものにあつては当該住宅用地、当該除して得た面積が二百平方メートルを超えるものにあつては二百平方メートルに当該住居の数を乗じて得た面積に相当する住宅用地

 
 なんだかよくわかりませんよね。これを簡単にまとめると、空き家等対策特別措置法14条2項の「勧告」を受けた「特定空き家」の土地の固定資産税は、軽減対象から除外されるということを規定しています。
 つまり①「特定空き家」であるため
    ②行政からの「勧告」を受ける
 と、いっきに固定資産税が高くなるということです。
 そうすると、①「特定空き家」とは何か、②勧告はどういった時になされるのかということが問題となりますが、これについては、※2でみていくことにしましょう。
 
 
※2『空き家と行政の介入』
 危険な空き家が増加し、社会問題となっている中、行政もこれに対応することを迫られる時代となってきました。平成27年に施行された、「空き家等対策特別措置法」では、一定の有害な空き家を「特定空き家」と指定し、これに対して、行政が介入し様々な権限を行使することができると定められています。
 
 では、「特定空き家」とはいかなるものをいうのでしょうか。これは、同法2条2項において以下のように定義されています。(※1の①)
 

(2条2項)
「特定空き家」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう

 
 では、特定空き家に対して行政はいかなることができるのでしょうか。これは同法の14条に定めがあります。簡単にまとめると、以下の①から④までの行為を、順を追って行うことができるとされています。
 
①助言・指導(1項)
②勧告(2項)      … 固定資産税の軽減を受けられなくなる(※1の②)
③措置命令(3項)    … 違反すると50万円以下の過料(16条1項)
④代執行(9項)
 
 つまり、適切な管理をするよう行政から指示が出され、これに従わず「勧告」という段階にまでいくと税法上の不利益が生じ、さらにこれに従わなければ最終警告として命令が出されます。最終的には、適切な管理に必要な行為を代わりに行政が勝手に行い、その費用を請求されるという「代執行」ということにもなりかねません。また、命令に従わなければ最大で50万円ものお金を払わないといけないことになります。

 ここまでみてきたように、この分野は、近年社会問題化しており、つい最近法改正も行われて変化を遂げてきている分野です。
 このような行政の権限やこれに反し管理を怠った場合の効果をきちんと念頭においたうえで、様々な危険等を回避するために、自己の所有する老朽化している建物を適切に管理してみてはいかがでしょうか。