小林政明法律事務所

改正消費者契約法について

1. 消費者契約法とは

 平成29年6月3日、改正された「消費者契約法」が施行されました。この法律は、市民のみなさまにとって非常に身近な法律ですので、今回はこの消費者契約法についてお話してみようと思います。
(1)消費者契約法の趣旨・目的
 消費者契約法とは、消費者たる市民のみなさまが事業者から物を買ったりする場合に、不当に利益を害されることを防止するために、平成13年から施行された比較的新しい法律です。
 本来、私人が契約を締結するのは、自由かつ自己責任であるのが原則です。契約内容についても当事者が合意するのであれば、自由に定められるのが原則です。
 しかし、事業者と消費者たる一般市民のみなさまとでは、持っている情報や専門知識等に差があるのは当然です。こうした情報力や交渉力に差があるにも関わらず、「契約は当事者の自由だ」という原則を貫いてしまえば、弱者である消費者が害されることは目に見えています。
 そこで、対等な者同士であることを前提とする上記原則を修正し、消費者の保護を図るために成立したのが消費者契約法なのです。
 
(2)消費者契約法の構造
 消費者契約法は、大きく分けて、2本の柱で構成されています。
 1つ目は、『不当な勧誘による契約の取消し』です。
消費者が事業者から不当な勧誘により契約をさせられてしまった場合に、契約を過去に遡ってなかったことにすることで、消費者の不利益を回避します。
 2つ目は、『消費者の利益を不当に害する契約条項の無効』です。
消費者がサインをしてしまった契約書に書かれている事項であっても、消費者にとって不当に不利益なものは効力が認められないとして消費者を保護します。
 以下、この2本柱の視点から、今回の改正を含めて解説していこうと思います。
 

2.1本目の柱『不当な勧誘による契約の取消し』

 まず、消費者契約法における重要な柱の1つ目である、「不当な勧誘を受けた場合における契約の取消し」について説明します。
(1)改正前から規定されている取消事由
  ①重要事項に関する不実告知
   契約をするかしないかを判断するのに通常必要な契約の目的(物・権利・役務)に関する重要事項について、
   真実と異なることを告げられ、これを真実だと誤信し契約をした場合
  ②消費者にとって不利益な重要事項の不告知
   契約をするかしないかを判断するのに通常必要な契約の目的(物・権利・役務)に関する重要事項であり
   消費者にとって不利益な事実を告げられなかったため、そういった事実はないと誤信し契約をした場合
  ③不確定事実に対する断定的判断の提供
   契約の対象となる物や権利の、将来の価格や受け取れる金額等、将来における不確実な情報につき
   確定的なことを告げられ、それを真実だと誤信し契約をした場合
  ④不退去
   消費者の住居や事業地から退去するよう意思表示したにも関わらず、事業者が退去しなかったため、
   困惑して契約をした場合
  ⑤退去妨害
   事業者が勧誘をしてる場所から、消費者が退去する意思表示をしたにもかからず退去させてもらえなかったため、
   困惑して契約をした場合
 例えば、①家を買う際に、直後にすぐ隣に超高層マンションが建築される予定であるのにこのことを隠されていたとか、③「今100万円投資すれば、1年後には間違いなく300万円の配当が貰えますよ。」と言われたとか、④訪問販売で帰って下さいと言っているのにしつこく押し売りされたような場合などです。
 
(2)今回の改正のポイント
 ア)「重要事項」の範囲拡大
 上記①②で不告知・不実告知の対象とされていた「重要事項」は、契約の目的物等に関する事項に限られていましたが、今回の改正で「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」もその対象に含められることとなりました。(消費者契約法4条5項3号)
 例えば、こんな事例が当てはまります。ある日、あなたの家に「サービスで家の無料点検をやっている」という業者さんがやって来ました。無料でやってもらえるなら…と思ったあなたは、点検をお願いしました。すると、点検を終えた業者さんがこんなことを言いました。「この家の床下にはシロアリがたくさんおり、家が倒壊する危険があります。今すぐこの家を建て直したほうがいいですね。よろしければ、うちで工事やりますよ。」と。建物が倒壊しては、命が危ないと思ったあなたは、その業者と家の建替えについての契約を締結しました。しかし、実はシロアリなどおらず、家の倒壊の危険などなかったことが後から判明しました。
 このケースは、従来の消費者契約法の規定では取消しができませんでした。この場合、あくまで契約は建物の建替えを目的とする請負契約ですので、改正前の規定で不告知・不実告知が許されないとされる重要事項は「建物を建てるという労務や完成する目的物」についてのものとなります。そのため、行われる工事や完成する家についてきちんと説明があれば、建替えを決意させる説明に嘘があっても、消費者契約法上、取消しはできなかったのです。※1
 しかし、今回の改正で、こうした場合もカバーできることになり、消費者の保護が手厚くなったといえます。

 ※1 応用 
<動機の錯誤>
 先ほどのシロアリ事例のように、建物を建てかえる意思自体は存在し、その旨の意思表示をしているが、その動機の部分に勘違い・誤認がある場合、一切消費者が保護されてこなかったかというと、そうではありません。民法上の判例による解釈で、一定の場合には契約(意思表示)を無効とすることができる余地があります。
 これは、講学上「動機の錯誤」と呼ばれる論点で、意思表示をしようとする意思(内心的効果意思)の形成過程に錯誤がある場合は、その動機が相手方に明示されていた場合に限って無効を主張することができるとされています。
<詐欺取消>
 また、不実告知や不告知の事例については、民法上の詐欺取消(96条1項)の方法によることも考えられます。しかし、民法上の詐欺取消の要件として、「詐欺の故意」(錯誤に陥れる意図とそれによって意思表示させる意図)が要求されるため、事案によっては立証が非常に困難となります。そのため、消費者契約法の存在意義は大きいといえます。

 
イ)新たな取消事由の追加
 高齢化社会に拍車がかかる近年、高齢者の判断能力の低下につけ込んだ悪徳な商法が増加してきました。その中でも、特に被害報告の多かった事例が、消費者にとって必要のない大量の商品を購入させるというものです(過量販売事例)。そこで、今回の改正で、こういった過量販売のケースでも取消しができる旨の規定を明文で新設しました。
(消費者契約法4条4項)
ウ)取消期間の伸長
 改正前に問題点として指摘が多かったのが、取消事由があったとしても、取消しができる期間を経過してしまっているケースが相当数存在するというものでした。
 改正前の規定では、取消しができるのは「契約を追認できるときから6カ月」以内とな
っていました。つまり、自分が誤信していたことに気づいた時点や押し売りに来た者が帰
った時点等から半年間しか取消しをすることができませんでした。
 そこで、今回の改正で、この期間を『1年』に伸長しました。
 

3.2本目の柱『消費者の利益を不当に害する契約条項の無効』

 次に、消費者契約法の重要な柱の2本目である「不当に消費者の利益を害する条項の無効」について説明します。
(1)改正前から無効となると規定が置かれている条項
 ①事業者の債務不履行・不法行為による損害賠償責任の全部又は一部を免除する条項 
 ②消費者の債務不履行の場合の不当に高い損害賠償額・違約金額の予定を定める条項
 ③その他、消費者の権利を制限し、又は義務を加重するもので、消費者の利益を一方的に害するもの
(2)今回の改正のポイント
 ア)無効条項の追加
 本来、債務は契約の内容通りに、通常要求される水準で履行されなければなりません。しかし、中には、期限までの引渡しがなかったり、ひどい品質のものを引渡してきたり、欠陥工事を行ったり(こういった債務の本旨に従った履行がないものを債務不履行といいます)と、ひどい業者もいるものです。そんな時は、契約を解除したり、損害賠償請求をしたりすることになります。
 しかし、契約書をよく見てみると、「●●(事業者)が債務不履行を行った場合であっても、●●は損害賠償責任を一切負いません。」といった内容の条項が書いてあったとします。契約内容を決めるのは当事者の自由なのだから、仕方ないか…なんてことは許しません!というのが(1)の①です。
 しかし、改正前の消費者契約法には、「●●が債務不履行を行った場合であっても、○○(消費者)は解除できません。」という条項が無効になるという規定は置かれていませんでした。
 そこで、今回の改正で、消費者の解除権を放棄させる条項も無効とする旨の規定が新設されました。(消費者契約法8条の2)
イ)③の一般規定への例示の追加
 上記③のように、改正前の消費者契約法には、消費者の利益を一方的に害する条項は無効ですよという抽象的一般的な規定が置かれていました。その規定に、今回の改正で、問題があるとされてきた「消費者の不作為をもって消費者が新たな申し込み又は承諾の意思表示をしたものとみなす条項」を例示という形で追加し、かかる条項が明確に無効となることを示しました。(消費者契約法10条)
 たとえば、ウォーターサーバーを1ヵ月間お試しで設置し、特にお断りの連絡がない場合には、同サーバーについてのレンタル契約が成立しますといった内容の条項が、この例示にあたります。
 

4.最後に

 ここまで、消費者契約法の概略やポイントについて説明してきました。
難しい言葉や、理解ができないこともあったかもしれませんし、これを一気に覚えることも困難だと思います。
 ただ、消費者被害にあった場合に、泣き寝入りするのではなく救済される方法が存在することや、救済される方法をとるには時間制限がある場合もあること等を、頭の片隅に置いておくだけも、万が一の際の対応は変わってくるのではないでしょうか。
 この記事が、少しでもみなさまのお役に立てることを願っております。